いまの毛包移植は後頭部から切り取った皮膚を株分けし、脱毛した部分に移すもので、毛の数が増えるわけではありません。後頭部の皮府にしても、二、三回取ればほぼ限界で、それ以上は取れません。
最後に、近未来の脱毛治療について触れておきましょう。現段階では外用療法、内服療法、毛包移植、カツラが脱毛治療の手段ですが、近未来の医療として髪の毛の数を増やす研究が行われています。
先ほど説明したように、いまの毛包移植は後頭部から切り取った皮膚を株分けし、脱毛した部分に移すもので、毛の数が増えるわけではありません。後頭部の皮府にしても、二、三回取ればほぼ限界で、それ以上は取れません。
そこで、髪の毛を作る細胞を試験管のなかで培養して大量に増やし、それを本人に戻す再生医療の研究が始まったわけです。組織の再生は、体性幹細胞を抜きにして語ることができません。
髪の毛を作る細胞には何種類もありますが、その大本になるのは毛包の幹細胞です。これについてもいろいろなことが分かってきました。
立毛筋が付着するバルジに毛包幹細胞や色素幹細胞がいるのです。火傷で表皮がなくなったときには、緊急対応として毛包幹細胞から表皮細胞が供給されて火傷が治ります。
毛包幹細胞は簡単に培養できます。しかし、これをシートにしてヌードマウス(毛のない免疫不全マウス)に移植すると表皮は再生しますが、毛包はできません。熱傷を負った患者さんの同意を得て同じ実験をしたところ、やはり表皮は再生しましたが、毛包はできませんでした。毛包幹細胞さえあれば毛包が再生できるわけではないのです。
では、毛包を再生する、あるいは毛包形成を誘導するためには毛包幹細胞のほかに何が必要なのか。それは、毛乳頭細胞です。いまから四〇年ほど前に行なわれたラットの実験で、本来毛包のない足の裏の皮膚に毛乳頭を移植して、毛を生やすことに成功しました。また短期間培養した細胞でも、新しく毛を作ることに成功しています。
ヒトの場合はどうでしょう。
いまから10年ほど前、ヒトの毛乳頭細胞を取りだして表皮と一緒にヌードマウスの腎臓の皮膜下に移植し、毛包を誘導することに成功しています。つまり、毛包構造を再生、誘導していくためには、毛乳頭細胞という真皮側の細胞を欠かすことができないのです。
培養した毛包幹細胞だけでは表皮しか再生できませんが、毛乳頭細胞も加え、両方の細胞を使えば完全な毛包再生ができるはずですが、しかしそこはまだ試行錯誤の段階です。
生体内から切り離された細胞は毛を作る能力を失ってしまいますし、体外で細胞を増やす段階で染色体が変化するなど、本来の性質とは異なるものになってしまうリスクもあります。これらの問題を解決すべく、現在アメリカ、ヨーロッパ、日本など世界中の研究所や機関が取り組んでいるところです。